みたき園コラム

text by Naoko Kobayashi

Vol.04

芦津のとち餅

『モチモチの木』(斎藤 隆介/岩崎書店)という名作絵本をご存知でしょうか。そこに登場する、「デッカイデッカイ」モチモチの木は、日本固有の栃(とち)の木。主人公の男の子に、「ほっぺたが 落っこちるほど うめぇんだ」と言わせたのがとち餅です。栗の実に似た、茶色く丸くてつやつやの栃の実を搗きこんだお餅。米が貴重だった昔は、かさ増しになったのでしょう、アクが強烈で虫や動物が食べることが少ないため、飢饉をしのぐのに役立ったと言われています。
智頭町芦津の伝統食でもあるとち餅。栃の実の下処理は、みたき園恒例の冬仕事です。夜明けとともに山に入り拾ってきた実を、数日天日で干し、湯でふやかして硬い皮をむきます。昔から一家にひとつはある木製の皮むき器を使います。そこからまだまだ続く下ごしらえ。「栃はバケモノ」と言われるくらい、なにしろ灰汁合わせ(アク抜き)が一筋縄ではいきません。栃の実を熱々の灰に入れて混ぜ合わせる、温度と時間の塩梅が、ベテランでもむずかしい。灰は必ず堅木(かたぎ:広葉樹)のものである必要があります。さらに網に入れて流れの速い川の水にさらしてを繰り返し、全工程2ヶ月以上かけてやっと使えるように。食べ物が不足していたとはいえ、昔の人はすごいです…。
とち餅だけの風味。特製石臼挽ききなこをまぶしたり、地の小豆で炊いた餡でおぜんざいにすると格別です。